ドーナツ・プロジェクトとは?



『ドーナツ・プロジェクト(Donuts-Project)』へのお誘い
幕が下りた瞬間から始まるもう一つの舞台に向けて

 

演劇やダンスなど舞台芸術は幕が下りた瞬間に消えてなくなってしまいます。だから私たち演劇博物館は、舞台芸術のアーカイブを「ドーナツ」と呼んできました。舞台上で繰り広げられた演劇やダンスやパフォーマンスは、まさにドーナツホールであり、中心でありながら、それ自体を保存することはできません。
しかし公演映像、戯曲、ポスターやフライヤー、チケット、衣装、舞台装置図、舞台写真、劇評など、その舞台に関連する資料をできる限り多く収集することで厚みのあるドーナツを形成することができます。

そしてこれらの資料をデジタル化することで、一つ一つのドーナツは貴重な記録として未来に継承されるだけではなく、たとえばアーカイブ映像を利用した配信が収益を上げたように、新たな活用の道を開拓することで生の舞台とは別の価値や利益を生み出す財産となります。さらに、時と場所を越えて、あらゆる時代、あらゆる地域の人々が貴重な舞台の記憶を共有し、蘇らせることも可能になるなど、個々の舞台を人類の共有財産とすることも可能になるのです。

そこで早稲田大学演劇博物館(以下「エンパク」)では、このたび舞台芸術のデジタル・アーカイブの構築と利活用を担うアートマネジメント人材の育成を目的とする連続講座を開設することになりました。この講座では、舞台芸術のデジタル・アーカイブの意義と可能性、舞台芸術の公演映像や写真、宣伝素材など諸資料のデジタルデータの適切な保存と管理の方法や著作権や契約関係の処理などを学ぶことで、受講者の皆様に、貴重な舞台公演記録をアーカイブし、収益化を視野に入れて利活用する知識を身につけていただくことを目指します。(文化庁「大学における文化芸術推進事業」「舞台公演記録のアーカイブ化のためのモデル形成事業」【通称ドーナツ・プロジェクト(Donuts-Project)】)

現役のカンパニーや劇場スタッフの方々はもちろん、これから舞台芸術のマネジメントを志す学生、大学院生の皆様や、舞台芸術のアーカイブ構築にご関心がおありの方にも、ぜひ受講していただきたいと思います。 舞台芸術は、もはや幕が下りた瞬間に終わってしまうものではなく、その瞬間に新たな幕が開くものになりつつあります。その担い手になってみませんか?


■講座の枠組み■

■講座の流れ■


■演劇博物館からのメッセージ■

エンパクでは、館所蔵の貴重な資料を研究・教育・商用利用など幅広く活用いただくため、インターネットを通じた資料目録のデータベース公開や、ジャパンサーチへのデータ連携を行うなど、積極的なデジタルアーカイブの活動に力をいれています。アーカイブの対象は、今日に至るまでの古今東西を含め、舞台芸術の諸分野をカバーしながら、一般には価値を認められないかも知れないチラシやチケットの半券や小道具類なども含みます。それら膨大な資料は、それぞれ1点ごとに貴重な情報を持っていますが、すべての資料が総体として取り扱われることで、それぞれの時代の舞台芸術を支え享受した人びとの豊かな営みを後世に伝えることや、新たな価値を生み出すことが可能になると考えています。

そして現代の舞台の公演情報がこのアーカイブに加えられることで、再演や二次創作の可能性をはじめ、研究・教育・商用利用など様々な利活用の機会が創出されることが期待されます。エンパクは、デジタルアーカイブが持つ可能性の一つに、”情報と情報を繋ぐこと”があると考えています。「この演出家は過去にこんな作品も手掛けているのか」、「この一門の能楽師はこんな現代演劇の舞台にも出演していたのか」、「この舞台で演じている俳優はこんな映画作品に出ているのか」、「この舞台公演のポスターのデザイナーは、あの美術館にも作品が所蔵されているのか」などの新たな発見は、アーカイブとして記録された情報と情報が繋がることで生まれます。そのような発見が、新しい発想を生み出す契機となることを、私たちは願っています。

これから上演される/近年上演された舞台の貴重な公演情報は、舞台芸術のアーカイブにとって最も新鮮な情報として、舞台芸術ファンだけでなく、文化に関心のある人々を惹きつける魅力的なコンテンツとして注目されることになるでしょう。また、それだけにとどまらず、過去のアーカイブと繋がることでさまざまな価値が創造され、再演や放送利用などをはじめとし、舞台関係者みなさんに対して新たな活動機会のきっかけや収益向上など、持続的な観点からの”もうひとつのちから”をもたらしてくれることが期待されます。

また、エンパクでは、2020年度に文化庁の「文化芸術収益力強化事業」に採択された緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(以下、EPAD事業)の一環として、舞台公演の情報検索サイトJapan Digital Theatre Archives(JDTA)を開設しました。EPAD事業では、公演映像を新規撮影するだけではなく、これまでに収録されてきた映像を収集し、それに対して協力金を支払い、権利処理を施して配信可能な状態とすることを目指しました。エンパクはEPAD事業で収集された貴重な公演映像をアーカイブ化し未来に向けて保存するとともに、その情報検索サイトであるJDTAを開設することで、演劇ファンを新たに開拓し劇場に足を運んでいただくことを狙いました。また、日英二か国語とすることで、海外に向けて日本の演劇の豊かさを発信することで、国際的な認知度を向上させることを企図しました。

ドーナツ・プロジェクトは、エンパクのこうした思想と実績から生まれたものです。舞台芸術のデジタル・アーカイブの意義と可能性を理解し、ゆくゆくは日本の舞台芸術アーカイブの充実と発展を担う人材を育てるお手伝いをしたいと考えています。