木村大輔

 Daisuke Kimura

専門分野:応用言語学、社会言語学

E-mail: dkimura#waseda.jp (replace # with @)

 

Classes

英語英文学科担当科目:

<1年必修>Introduction to Language and Communication
<選択必修>World Englishes and English as a Lingua Franca
<専門選択> Pragmatics and Discourse Analysis
<ゼミ>英米文学語学演習I・II
<大学院> 英語学特論II-1, II-2

ゼミ紹介:About my seminar

私のゼミのテーマはグローバル化と言語です。グローバル化の影響は、国際語としての性格の強い英語に対して特に顕著に見られ、それにまつわる諸研究は近年の応用言語学を牽引する主軸の一つとなっています。このような社会的・学術的文脈のもと、私のゼミでは以下のような問いについて探求します:

  • 多様な言語・文化的背景を持つ多言語話者達は実際にどのように英語を使用しているのか。
  • 背景の異なる話者同士のやりとりを成立させる要因には、既成の言語知識の他にどのようなものがあるか。
  • 実際のやりとりや社会空間において英語と多言語はどのように共存しているか。
  • 社会的な要因(言語文化にまつわる通説・イデオロギー、アイデンティティ、やりとりの相手との力関係、目的など)は、言語使用にどのような影響を与えるか。
  • 現代英語の「現実」は言語教育や応用言語学の理論的発展へどのような示唆をもつか。

また、研究成果を広く効果的に伝えるために、英語論文執筆の作法・技法および口頭発表の訓練もゼミの一環として行います。ゼミは研究論文の輪講、研究の進捗発表、意見交換などを中心に進めます。各々の知識や経験を最大限に活かすため、授業は日英語を併用して進めます。発表や執筆は基本的に英語で行ってもらう予定です。

※論文執筆のプロセス(先行文献や事例の整理、問題設定、調査分析、聞き手・読み手を納得させるためのプレゼンや執筆、など)はどの分野や職種にも共通するものです。主体的に取り組むことで、各々が成長を実感できるような環境を一緒に目指しましょう。

自己紹介:About myself

2022年度4月より准教授として英語英文学科に着任いたしました木村大輔と申します。専門は応用言語と社会言語学で、グルーバル化社会における英語やその他の言語の役割の変化ついて研究しています。プライベートでは一児のパパです。コロナ禍で保育園が急に休園になったりするなか、娘の理不尽な(?)要求にタジタジになりながら仕事と子育てに奮闘しています(苦笑)。妻の両親は英語しか話せないので、会ったときに困らないように、家庭ではなるべく英語を話すようにしています。まだ喋り始めて間もないですが、場面や相手によって英語と日本語を切り替えたり混用したりする娘の様子をみながら、言語発達と社会性発達の密接な関係について実感する日々です。伝えたい気持ちや話したい相手など、社会との接点から言語能力が育つ様子は、教室での言語学習と対照的でとても新鮮に感じます。

さて、少し話はかわりますが、「言語は道具である」ということばがありますね。この考えは皆さんの英語学習にどの程度反映されているでしょうか。道具として英語を学ぶということは、教室での学習にとどまらず、実際に英語を使用するなかで自分なりの使い方を身につけていくということを意味します。私達のような多言語話者の共通語として英語が用いられる現代においては、このような視座がますます重要となります。これから皆さんには英語を「学ぶこと」だけではなく、ぜひ「使うこと」にも目を向け、学内外の多様性を活用して学び続ける自走的な姿勢を身につけてほしいと願っています。私も微力ながら、授業だけではなく、様々な場面で学生のサポートができるように努めます。これからどうぞよろしくお願いします。

専門紹介:My academic field

国境を超えて知的・文化的交流が盛んに行われるグローバル化を背景に、言語を使う・教える・学ぶことの意味は大きく変容してきました。第二言語話者同士の英語を介した交流が常態化した現代社会においては、英語を軸とした多言語コミュニケーションという視座が肝要です。私はこれまで、タイでの2年間の滞在や米国での8年間の大学院生経験を通じ、英語の重要さとともに、英語オンリーの視点の限界を肌で感じてきました。多言語話者にとって英語は一つのリソースであり、彼らのコミュニーケーションは様々な言語や文化の影響を受けた特徴を示すからです。

一般に英語学習者を指して使用される「ノンネイティブ」という言葉には「不完全さ」や「劣等性」などの否定的な意味合いが含まれますが、英語学習者を「多言語話者」であると捉えることもできます。バックグラウンドの異なる多言語話者同士のやりとりを成立させるためには、既成の言語知識に囚われすぎず、相手と柔軟に協働し、経験から学び続ける姿勢を持つことが必要になります。このような視座で英語を捉えた場合、ネイティブとノンネイティブを区別して考えることは必ずしも生産的ではありません。グルーバル化の文脈においては、万人が「英語使用者」であるとともに「英語学習者」であるといえるのです。実際、学術の場においては多くの多言語英語話者が活躍しており、ジャーナルの編集者など高度な言語知識を必要とする役割を担っている者も決して少なくありません。ビジネスの現場においても同様です。

応用言語学者としての私の研究・教育は、上記のような考えに基づいています。研究活動においては、多様な言語・文化的背景を持つ者同士が実際にどのように多言語を使用し、相互理解を達成しているのかを調査・考察することに注力してきました。これまでに、タイやアメリカでの現地学生と留学生の交流や理系研究者のミーティング場面など、様々な種類の相互行為の分析研究に携わってきました。また、日本人学生の英語使用・学習態度についての調査もしています。研究に加え、教育の場においてもネイティブとノンネイティブの区別や、あらかじめ決められた規範を疑う姿勢を涵養する努力を行ってきました。アメリカにいた際には、ネイティブ学生を対象とした世界の英語についての理解を促すための授業を担当したこともあります。

英語という言葉には、英米文学、娯楽、異文化コミュニケーション、学術研究言語などの様々な側面があり、「どのように英語と付き合うか」という問いは全ての学習者・指導者が向き合うべき課題です。今後も多言語話者として英語を使う・教える・学ぶ意味を追究し、研究と教育の相互的充実に励んでいきたいと思います。

私の学生時代:My school life

私の学生時代で一番印象に残っているのは、タイで一年間の交換留学をしたことです。留学先にタイを選んだのは、世界中から集まる学生たちと英語で授業を受けられるプログラムがあったからでした。英語力に自信はありませんでしたが(全く謙遜ではなく)、国際的な環境に飛び込んで、コミュニティの共通言語としての英語を使う生活を体験してみたかったんです。留学先はバンコクのタマサート大学のタイスタディーズ・プログラムというところでした。毎年約100名の学生が参加する留学プログラムは、さまざまな国の留学生と交流しながら互いの言語や文化に触れられる魅力がありました。初めのうちは授業や雑談に全くついていけず自暴自棄になり途中帰国を考えたこともありましたが、「兄貴肌」のルームメイト(ポーランド人)に叱咤されながら努力した日々は今では良い思い出です。一緒に授業を受けたり、バックパッカー旅行をしたり、レポートを書いたりなど、他国の学生との交流を通して「多言語環境における英語の役割」に関する認識が自然と形成されていき、それまでに受けてきた英語教育との乖離に対して問題意識を持つようになりました。

タイも日本と同じ、いわゆる非英語圏。大学を一歩出れば現地の言葉なしでは生活できません。「英語は共通語だから英語だけ練習すれば大丈夫だろう」という自分の認識が甘かったことを痛感しました。また、英語を話すタイ人の「タイ語訛りの英語」もなかなか理解できませんでした。逆に、私の英語も理解できない人が多くいたと思います。渡タイ一日目に宿泊したホテルのフロント係との「英語」でのやりとりが上手くいかず、「Can you speak English?」と言われてしまったときの悔しさは今でも鮮明に覚えています。これは私にとって非常に衝撃的な出来事で、「これまで学んできた英語はなんだったのか?」、「英語ができるとはどういうことなのか?」、「これから何を目指して英語を学べばよいのか」など、現在の研究のきっかけになりました。はじめは全くタイ語の知識はありませんでしたが、タイ語の授業、現地学生との交流、日系企業でのインターンシップなどを通じてタイ語もある程度身につけることができました。今ではタイは私の心のふるさと。タイ語やタイ人の話す英語を聞くと、とても心が安らぐとともに、気持ちが引き締まる感覚を覚えます。この「経験がなければ今の私はいない」と言い切れるほど、タイでの留学経験は私の人生を大きく変えてくれました。

大学卒業後はフルブライト語学アシスタント(FLTA)プログラムに参加して、1年間アメリカのケンタッキー州立大学で日本語を教えながら大学院で言語習得の授業を履修しました。この頃、「リンガ・フランカとしての英語」という概念も広まりつつあったので、タイでの経験で得た気づきを学問的に追求するためにハワイ大学の修士課程に進学しました。修士課程在籍中に著作を読んで感銘をうけた研究者に指導を仰ぐため、修士修了後すぐにペンシルベニア州立大学の博士課程に進みました。大学院ではさまざまな言語使用場面の分析に主に取り組みました。たとえば、ネイティブとノンネイティブが混在する理系研究室において、ノンネイティブの博士研究員がどのように言語を使用しているか、それがグループ内のコミュニケーションや研究成果にどのような影響を与えているのかなど。教育の場においては、アメリカ人学生に身近な「Pittsburghese (ピッツバーグの方言)」を題材にアメリカ国内の英語の多様性についての理解を促したうえで、その発展として世界の英語の多様性についての議論を行ったりもしました。はじめは1年の予定で渡航したアメリカには結果的に8年滞在し、無事に博士号を取得して2018年に帰国しました。

振り返ってみると、学生時代の私は良く言えば「大胆でチャレンジ精神旺盛」、悪く言えば「行き当たりばったりで計画性ゼロ」。こんな私がなんとかやって来られたのは、人との出会いに恵まれていたからだと思います。尊敬する大学時代の恩師が「You’re welcome(どういたしまして)」の代わりに、いつもおっしゃっていた言葉に「It’s my pleasure」というものがあります。いろんな方々から受けた恩に報いるためにも、「Give back(恩返し)」だけでなく、「Give forward(次の世代への還元)」の精神で学生の皆さん挑戦を応援してPleasureを共有していきたいです。

主要著作:Main Publications

Kimura, D. (2021). Cooperative accomplishment of multilingual language tutorial: An intercultural pragmatics study. Modern Language Journal, 105(3), 655-678.

Kimura, D. (2020). Enacting and expanding multilingual repertoires in a peer language tutorial: Routinized sequences as a vehicle for learning. Journal of Pragmatics, 169, 13-25.

Kimura, D. & Canagarajah, S. (2020). Embodied semiotic resources in Research Group Meetings: How language competence is framed. Journal of Sociolinguistics, 24(5), 634-655.

Kimura, D. (2019). “Seriously, I came here to study English”: A narrative case study of a Japanese exchange student in Thailand. Study Abroad Research in Second Language Acquisition and International Education, 4(1), 70-95.

Kimura, D. (2019). Towards cross-fertilization of English as a lingua franca and study abroad. JACET ELF SIG Journal, 3, 3-24.

Kimura, D., Malabarba, T., & Hall, J.K. (2018). Data collection considerations for classroom interaction research: A conversation analytic perspective. Classroom Discourse, 9(3), 185-204.

Kimura, D., Mattson, N., & Amory, M. (2018). A conversation analytic approach to oral placement test validation: Attending to vertical and horizontal comparisons. TESOL Journal, 9(3), 455-480.

Kimura, D. (2017). L1 English speaker participation in ELF interaction: A single case analysis of dyadic institutional talk. Journal of English as a lingua franca, 6(2), 265-286.

Kimura, D. & Canagarajah, S. (2017). Translingual practice and ELF. In J. Jenkins, M. Dewey, & W. Baker (Eds.), Routledge handbook of English as a lingua franca (pp. 295-308). London: Routledge.

Kimura, D. & Kazik, N. (2017). Learning in-progress: On the role of gesture in microgenetic development of L2 grammar. Gesture, 16(1), 126-150.