第60回マンスリーコロキウム 議事録

早稲田大学次世代ロジスティクス研究会

第60回マンスリーコロキウム議事録

開催日時 2022年2月17日(木) 12時30分~15時40分
実施方法 ZOOMによるオンライン方式
参加者 会員約40名(途中入退出あり)
講演次第 第1講演 12時30分~14時
『物流DXの一例 港湾自動化の展開』
(株)日本港湾コンサルタント 宗 相鎬氏

第2講演 14時10分~15時40分
『一帯一路の新しいルートとその可能性』
SITC INTERNATIONALジャパン社長 呂 開献氏

司会・進行 早稲田大学総合研究機構次世代ロジスティクス研究所
招聘研究員兼事務局長 岩間 正春氏

議事録作成:運営支援者 森 和彦

 

第60回(2022年2月17日開催)マンスリーコロキウム感想

早稲田大学名誉教授 髙橋  輝男

 

1.物流DXの一例  港湾自動化の展開                                       宗相鎬先生

私は港を背景に育ってきた。横浜の大桟橋では大きな外国のクルーズ船も見たし、東京港の巨大なクレーンに驚いたこともあった。しかし、これらは庶民の目を通しての印象だ。今日はプロの語る新兵器で武装された港の話だ。楽しみである。

港湾の自動化も世界のIoTの流れの影響を受けていることは確かだ。IoTはInternet of Thingsで、あらゆる「もの」がネットにつながることである。「もの」とは、「もの」のもつ情報発信能力である。世界的なこの流れの中でドイツでは第4次産業革命として、Industry 4.0と名付け、産学官が力を結集しようと活動をスタートさせた。また米国ではGEをコアにしてIndustrial Internetを具体化した。各々、特徴はあるが、デジタル技術の活用といえば、これがベースになっていることは確かだ。続いて日本がこれらをベースに展開して、経済発展と社会的課題の解決をねらうプロジェクトを組織した。これをSociety 5.0と呼んだ。新しい時代の揃い踏みである。

いずれのプロジェクトにおいてもデジタル技術を基礎にしてはいるが、人間の自律的能力を生かすこと、つまり人間の存在を無視することはできない。(質問の欄を参照して欲しい)

このような最先端の技術を駆使する時代にあって、今日聴いた港湾自動化の実践例は際立っていた。港湾における高度な設備、ソフト、また開発された様々な技法、活用された知識、加えて最新事例のすぐれた点を引用してシステムを集約していた。多くの経験を踏まえた進歩が担当した企業や国の遺産となっていく。

私の質問についての補足:いつも高度なシステムの聴講をすると、自動化のレベルの高さに人々は興味を持つと思うが、私は必ずしもそうではない。興味は「人間のなすべき仕事をどう決めましたか?」ということだ。機械化できないから人手に頼るしかないとか機械では金がかかるからとか、今の技術レベルでは機械化が難しいというように、機械がメインで無理をせず残った部分を人間がやると考えることが多いのです。質問の答に「私達は安全を主にシステムを考えました。だから―」といっていました。実は、安全なシステムというのは“ねらい“であって目的ではありません。大切なのは目的で、それは「荷役作業を実践して、港で必要な荷を目的通りに移動する」が目的でしょう。これをどのように「人間と機械が仕事を分担するか?」と私は問いかけたのです。積極的に人間にさせたい仕事を求めたのです。それは人間の自律的な能力を生かす仕事と私は考えたのです。それがあってシステムは成長し、また安全も維持されるでしょう。例えばチョコ停対応、改善ヒント提供、仲間との調整、咄嗟の行動、将来のシステム構築支援など、こんなコトを機械の中の人間の仕事と考えています。

将棋の王将戦での棋士の仕事は人間の仕事でしょう。まだAIには譲れません。

 

 

2.一帯一路の新しいルートとその可能性                                     呂開献先生

何度も修正をくり返しながら、なお一帯一路は計画途上にある。2012年習近平はこう述べているという。「一帯」とは「中国西部から中央アジアを経由して欧州へと続く陸上シルクロード」であり、「一路」とは「中国沿岸部から東南アジア、インド洋、アラビア半島沿岸部、アフリカ東岸部を結ぶ海上シルクロード」である。広さにおいて、計画に要する時間において、まさに壮大な計画である。この実験はマスコミでもしばしば取り上げられている。

・        「一帯一路港湾1.2兆円投資……米日警戒」日経2019年12月27日ではトラブルを抱えながらも積極的に拡大していると論評している。

・        「一帯一路の新鉄道苦戦」朝日新聞2019年1月25日「……中国の債務の罠」とこの計画を心配している。

おそらく計画通りに進めたいという中国の歩調に各国が不安を抱えているのではないか?また返済や権利のこともある。

だが呂先生の話は、客観的に事業を淡々と説明された。それは物流の新路線計画という面で説得力があった。

彼等にはどうしても国家が決定したことを粛々と進めたいという気持ちがあるだろう。計画過程であっても成長を組み入れながら、着々とプロジェクトを進めている様が見える。

ここで同じ中国で体験した雄安にある自動運転システムを見よう。システムの実装計画だ。もともと大きなシステムは計画、導入、評価、テストをくり返しながら、関与者を説得をし、合意を得ていくのではないか?

ある新聞で、東大の伊藤東聖准教授の話を引用して2)、「中国的実装とはサービスが未成熟のうちからサービスを市場に導入して、競争と淘汰、修正をくり返しながら、短期間で社会に根づかせていくこと」と説明している。そしてこうした導入に厚意的である。そういえばスマホも定着過程はこんなものだったかもしれぬ。私も中国的実装に手を貸していたことになる。

こんな成熟過程を組み入れることによって、一帯一路の拠点を物流ハブとしてだけでなく、ここにスマート都市、農業、金融サービス、病院などを組み込めるのではないかと思った。人々の欲求が社会システムを育てるのだ。住民主体のスマート都市を見たいものだ。それが単なる夢物語だということは百も承知しているつもりだが。

 

参考:
1)岩間正春,サプライチェーン・ロジスティクス視点からの一帯一路,港湾10月号
2)中山淳史,「社会実装」という技術革新,日経新聞,2018年9月26日

以上

===========================================================================

議 事

新型コロナウィルス・オミクロン株感染者、濃厚接触者が高止まりしており世界的にも鎮静化の鈍い状況が続いている中、2月のマンスリーロコキウムが開催された。今回は港湾自動化の先端的事例及び一帯一路の最新状況について、ご講演を頂いた。

 

第1講演 12時30分~14時

『物流DXの一例 港湾自動化の展開』
講演者 (株)日本港湾コンサルタント 宗 相鎬氏

キーワード : スマートポート、AIデジタルツイン、VR、AR

コンテナターミナル向けデジタルツイン・業務分析ソリューションというサブタイトルの通り、実際の港湾オペレーション状況をリアルタイムにモニタリング(ダッシュボード)し、ガントリークレーンやヤード内トラック、コンテナ等に取り付けられたセンサーをGPSが読み取り、エミュレーターで変換されて港湾内すべての機器の動きが把握でき、機器の自動化制御を行うこともできる。またAI解析によって蓄積されたデータからイレギュラー生時の対応、危険予知アラートをリアルタイムに発信して該当するオペレータに注意喚起したり、VRやAR技術を駆使しシミュレーションを行うこともできる。さらにダメージコンテナの位置検索も可能である。

クレーンの待ち時間半減や処理の自動化によるマンパワーの削減16%、在庫不一致0.98%、問題の素早い検出及び解析などの効率化を創出している。

 

(感想・質疑・応答)

田中先生
ビジュアルツールとしては良くできているが、港湾内のオペレーションが計画通り(予定入出港数、通関等処理時間)に処理できているか、計画への修復制御等がこのようなシステムの目的ではないか。
宗氏
世界的にスマートポートが提唱され、人や環境にやさしい運営をめざしている。その実現のためのツールとして開発された。今回こちらを紹介している。

高橋先生
オペレーションの構成は人と機械に大別できるが、特に開発者として人がすべき作業をどのように考えているか。
宗氏
開発者の発想は、人がより安全に作業するためのアシスト機能(監視、制御)を備えたツールということである。

阿部氏
このシステムを運用する組織体制はどのような構成になっているのか。増減便などイレギュラーな対応が発生する場合の対応は。
宗氏
基本は計画された港湾オペレーションのデータを受け取り、実際の進捗が計画通りに進められているかを監視しているのは2~3人で、その他の人は別作業という構成かと思われる。イレギュラー発生時はPOSデータが変更されると作業指示が該当機器に送信される。

 

第2講演 14時10分~15時40分

『一帯一路の新しいルートとその可能性』
講演者 SITC INTERNATIONALジャパン社長 呂 開献氏

キーワード : 重慶陸海新ルート、欽州港、一帯一路

一帯一路の拡大が国家プロジェクトとして推進されており、その一環で重慶陸海新ルートの開設が進められた。従来重慶からは上海経由で国際物流を行うケースが大半であったが、西部の開発を推進し、新たなスケールの戦略ルートを形成する等西部の国際経済協力サポート、産業振興を図る目的で北部港湾(欽州他)をリデザインする。

重慶を基点として北部港湾河口までの2ルートと成都から北部港湾河口まで1ルートで構成され2030年までに全線開通させる。政府からの出資を受け設立された陸海新ルート会社がこの運営を行う。五位一体サービスを掲げて物流(鉄道、海上、クロスボーダー列車等)、貿易(国際貿易、代理店調達、通関申告等)、産業(ルート周辺産業振興)、データ(データ交換標準化、可視化、分析)、金融(クローズドグループの金融サービスネットワーク)の各サービスを提供する。本ルートの実績は、重慶-欽州→ハイフォン18日、重慶-欽州→パラナグア20日短縮などショートカット効果を創出している。さらに広西省の港湾すべてを一括管理する北部湾グループ(BBW)によって、2021年には600万TEUの扱い高となっている。

当社では、欽州港から日本、韓国、フィリピンなど8ケ国、18港へ毎週直行7便のサービスを提供している。中国内へは新ルート及び中央班列を利用して地域を拡大させている。

 

(感想・質疑・応答)

高橋先生
中央班列など物流を主に語られるが周辺の人々の産業、暮らしについてはあまり語られない。
呂氏
周辺地域独自の政策等もあるが、もう少し協力的に進める必要がある。

岩間先生
24年インドネシアが首都移転(カリマンタン)を行うが、欽州港が近くなることへの展開は。
呂氏
既に周辺海域への航行があるので、移転後サービスの開始は即対応できる。

石井氏
重慶基点で進められているが、周辺都市についてはどのよになるのか。
呂氏
成都なども鉄道を通す案があったが、国と地方の政策が一致した結果重慶になった。

===========================================================================

次回開催予定 2022年3月17日(木)
第1講演 「ポストコロナ後の国際物流」 野村総合研究所 宮前氏
第2講演 「シベリア鉄道について」   環日本経済研究所

以 上