2017年度5月研究例会 (第162回オペラ研究会)

講演会

古典舞踏とオペラ~舞踏会のダンスをめぐって

◇講演者:市瀬陽子
◇日時:2017年5月20日(土)17:00-18:30
◇会場:早稲田大学 早稲田キャンパス 3号館 809教室
◇言語:日本語

概要

オペラ作品におけるダンスは、いかに聴衆にアピールするか。実体験を通してそれを感じ、共有し、オペラの新しい楽しみを知ってほしい。それが本発表の主眼である。取り上げた場面はモーツァルトの歌劇《ドン・ジョヴァンニ》第一幕の舞踏会、終幕で踊られる三つの舞曲-メヌエット、コントルダンス、ドイツ舞曲-が、ダンス実習のお題である。

冒頭に、オペラにおけるダンスの役割を的確に捉えて効果的を挙げた上演であり、今回のテーマに結びつく例として、演出家 D.マクヴィガー、振付家 A.ジョージへのインタビューを紹介した(ヘンデル作曲《ジュリオ・チェーザレ》、グラインドボーン音楽祭、2005年)。

続いて三つのダンスそれぞれの歴史を概観し、振付資料について述べた。フランス宮廷の気品高いメヌエット、イギリスに起源を持つ社交的で楽しいコントルダンス、くだけた調子のドイツ舞曲はレントラーやワルツとの関連も指摘される。聴衆が理解した社会的な意味合いはもちろんのこと、それは多様な客層をそのまま反映した選曲ともいえる。

メインとなるダンス実習は、積極的な参加を得て三つのダンスを全て踊ってみることができた。重なり合って演奏される三つの舞曲を、耳で聴き分けることは困難だろう。しかしダンスが解れば一目瞭然、客席の誰もが各々反応できたはずだ。そして舞踏会の場面は「観る」だけでなく、いわば「参加する」機会となり、聴衆に高揚感を与え、客席と舞台を繋ぐ重要な役割を果たす。オペラ研究会のフロアもまさに熱気に満ちて、その楽しさは十分に共有されたように思う。このような参加型の発表を好意的に受け止めて下さったオペラ研究会の先生方、参加者の皆様に、心より感謝を申し上げたい。

講演者プロフィール

舞踊史研究者、ダンサー、振付・演出家。聖徳大学音楽学部准教授、東京芸術大学講師。舞台作品“優雅な宴 les fêtes galantes”(1992/93)にてA.カンプラのバレエ作品を復活上演、バロック・ダンスを中心に出演作多数。近著に『バレエとダンスの歴史』(平凡社、鈴木晶編著、2012年)、DVD『時空の旅~バロックダンス・ファンタジー』解説(2010年レコード芸術特選版)。

※プロフィールは発表当時のものです


開催記録

参加者:19名

質疑応答

ダンス実習に熱が入って質疑の時間をやや圧迫してしまったにも拘わらず、様々な角度から示唆に富んだ発言が数多く寄せられた。ダンスの振付や歴史に関わる質問、オペラを上演する現場あるいは人材育成における問題点、現代的な解釈を採用したバロック・オペラの演出・振付に対する見解など、オペラ上演の本質に関わる質問や意見が出され、研究と上演とを結ぶ、非常に活気ある意見交換の場となった。